那覇家庭裁判所 昭和49年(家)186号 審判 1974年4月13日
申立人 竹中カネ(仮名)
主文
一 本籍沖繩県中頭郡○○村字○○△△番地筆頭者竹中カネ戸籍中、同人の身分事項中、婚姻事項及び離婚事項を消除する。
二 同戸籍中、除籍された勇作の身分事項を全部消除する。
三 鹿児島県大島郡○○町大字○○△△番地筆頭者丸山昌夫改製原戸籍及び同所同番地筆頭者丸山光夫戸籍について、所要の訂正をする。
ことをそれぞれ許可する。
理由
一 申立人は主文同旨の審判を求め、その申立の実情の要旨は、
(1) 申立人は、昭和三一年五、六月頃那覇市○○△班の飲食店で丸山勇作の内妻と知り合い、その頃琉球籍外の者が沖繩で商取引をするには、沖繩の女性と結婚した方が便宜であつたので、双方とも婚姻の意思は全くないにもかかわらずその依頼により婚婚したような形式をとつた。
(2) その頃、丸山は東京の貿易商社と○製品の取引をしていた。
(3) 婚姻届も離婚届も申立人は全く知らないし丸山一人で出した。
(4) それで双方の婚姻及び協議離婚は無効であるから、その関係事項を消除してもらいたく本申立に及んだ。
というにある。
二 先ず本件は、身分関係(夫婦関係)の変動に影響を及ぼす事項に関する戸籍訂正の許可審判を求める申立であるので、その点について検討する。
本件申立事項たる婚姻及び協議離婚は、戸籍法一一四条に所謂「届出によつて効力を生ずべき行為」に該当し、他方または家事審判法二三条の所謂「合意に相当する審判」の対象でもあり、競合関係にある。
従来、身分上重要な影響を及ぼす事項については、同法二三条の審判手続もしくは訴訟手続により戸籍法一一六条に則つて訂正すべしとの見解と、同法一一三条又は一一四条による戸籍訂正手続によつて訂正すべしとの見解があるが、家事審判を二三条の審判手続と戸籍訂正手続とは、前者の場合にその手続の一過程に調停委員の意見を聴くという点のちがいがあるだけで、その提出される疎明資料ないし証拠資料又は証人・参考人・事件本人・申立人及び相手方等に対する事実関係の調査審問の結果等は殆ど共通であり、その法律的評価の仕方等も社会通念ないし経験法則・論理法則に従つて判断する限り異なるわけではなく、実質的審査という点では彼此径庭はない。
従つて、本件の場合においても、その婚姻関係の事項の記載が虚偽表示(仮装婚姻)に基づく記載であることが証拠上明らかであり、且つ申立人及び利害関係人に異議がなければ、戸籍法一一四条によつて訂正をなし得るものと解する。
三 而して、本件につき審案するに、
本件一件記載によると、本件利害関係人たる丸山勇作の本籍は、鹿児島県大島郡○○町大字○○△△番地であり、申立人に対する審問の結果並びに当裁判所の前記丸山に対する照会回答によると、当時同人は○○業の商人で東京の商社と取引していて、琉球に籍がないと商取引をするのに不便・不利であつたので、司法書士と相談したところ、琉球籍の人と戸籍上の結婚をした方がよいと言われ、知り合いの人の紹介で申立人にお願いして、結婚する意思は全くないにもかかわらず、婚姻したような形式をとつたこと、婚姻届出や離婚届出についても申立人は全く関知しておらず、前記丸山が司法書士に頼んでその手続をしたことがそれぞれ認められ、右認定に反する証拠は他に存しない。
また同人は本件申立に対し異議がないことは、前記照会回答の文面より明らかである。
加えるに、当時沖繩はアメリカの統治下にあつて、琉球に籍を移すには本土の者でも高等弁務官の許可が必要であつたので(琉球列島米国民政府布令六八号、琉球政府章典三条一項)、その手続を回避するためには琉球籍の女性を筆頭者とする戸籍に入籍せざるを得なかつたのであり、琉球住民(琉球の戸籍簿にその出生及び氏名の記載されている自然人をいう。同章典三条一項)以外の者の経済活動は激しく規制されて不便・不利を強いられていた当時の社会経済体制下においては、かかる脱法行為もある程度止むを得なかつたと言えよう。
従つて、本件婚姻行為は、本来当事者間に婚姻をする意思がなく、虚偽表示による仮装婚姻であるから無効であり、また利害関係人も本件申立に対し異議はないから、本件婚姻関係事項の記載は消除されるべきである。
よつて戸籍法一一四条に則り主文のとおり審判する。
(家事審判官 浜川玄吉)